こんにちは。日本の伝統工芸を知るシリーズ、宮城編です!
宮城県
東北の東南部に位置する宮城県。県内には仙台平野が広がり岩手から流れる北上川や阿武隈川といった大河が貫流しています(下図参照)。
大きく分けると4つのエリアに分けられ、「仙北」「沿岸」「中央」「仙南」があります。県内の平野部においては肥沃な土地を活かした稲作が盛んであり、「ササニシキ」や「ひとめぼれ」の産地となっています。沿岸エリアは岩手県より続くリアス式海岸である三陸エリアとも呼ばれ、親潮(寒流)と黒潮(暖流)の潮境で、世界的にも有数の漁場であると言われています。
県中には日本三景の一つである「松島」があり、美しい風景が人々の心を癒してくれます。また、県の西側には山形県と共有する「奥羽山脈」がそびえ立っており、他の地域が太平洋側気候であるのに対し、県西部は多雪地域に分類され、蔵王山でスキーや樹氷を楽しむことができます。
現在の宮城県の領域は古墳時代からヤマト王権の影響下にあり、雷神山古墳などの多数の古墳が存在します。後に、陸奥国府と多賀城が置かれました。中世には現在も地名として残っている「大崎氏」「葛西氏」「留守氏」「国分氏」などが割拠しましたが、伊達政宗が米沢城(山形県南部)から岩出山城を経て仙台城を築き、江戸時代は伊達氏の仙台藩がここを統治しました。明治時代の廃藩置県に前後して県域の分合が度々行われ、現在まで続く宮城県の領域の形成は明治9年に行われました。
参考サイト:宮城県教育旅行ガイド, 宮城県警察HP, ジオテックHP, Wikipedia
このように雄大な奥羽山脈や大河、太平洋などの美しい自然、地形によって育まれてきた宮城県の伝統工芸は多数あります。今回は、
- 雄勝硯・硝子
- 仙台箪笥
- 白石和紙
- 正藍冷染
- 玉虫塗り
についてお伝えしたいと思います!
第一弾「雄勝硯・硝子編」漆黒の雄勝石が生み出す美しさ、雄勝の地層から生まれた雄勝ガラスの可憐さをお楽しみください。
雄勝硯(おがつすずり)とは
雄勝硯は、宮城県石巻市、雄勝で作られている硯です。硯工人さんが手で掘り、研磨して一つ一つ手作りで作っています。伊達藩の庇護のもと、雄勝では良質な原材料である雄勝石が豊富に採石できたことにより生産地となりました。
雄勝硯の特徴は、光沢のある漆黒や美しい天然の石肌模様、墨が擦りやすく、良い色が出ること、高い耐久性にあります。原料である雄勝石は、黒色硬質粘板岩の一種で玄昌石とも呼ばれ、曲げや圧縮、経年劣化等への耐久性が高く、、低い吸水性を持つことから硯以外にも屋内外のタイルやテーブルの材料としても用いられています。また、雄勝石が産する地層は約3億年前の古生界の地層であることが知られています。
歴史
雄勝硯の歴史は大変古く、室町時代頃まで遡るとされています。これは1396年(応永3年)の建網瀬祭初穂料帳(たてあみせまつりはつほりょうちょう)の中に硯浜の名称が出てきていることが起源とされています。
また、江戸時代には伊達政宗に雄勝硯を献上して気に入られたという逸話もあるそうです。伊達政宗の墓から雄勝硯が出てきていることからも、伊達氏が雄勝硯を愛用していたことが伺えます。さらには二代目忠宗もその巧みな技巧に感服し、硯師を召し抱え、硯の原料が採れる山を「お留山」として、一般の者が石を採ることを許さなかったと言われています。伊達藩のお抱えとなった雄勝硯の硯職人。硯師だけでなく採掘場も伊達藩によって保護されることで、ますます雄勝硯の文化が花開いていきました。封内風土記によると、江戸後期、特産品となり雅物として扱われていた旨の記載があります。
1985年(昭和60年)には伝統工芸に認定され、美しさと実用性を兼ね揃えた雄勝硯は現代に至るまで広く人々に愛され続けています。
参考サイト:KOGEI JAPAN, 伝統工芸青山スクエア , 雄勝硯生産販売協同組合より
雄勝石が魅せる漆黒の世界
それでは雄勝石が生み出す美しい漆黒の世界をお楽しみください。今回は敢えて硯ではなく、現代の生活においてより身近に感じることのできるテーブルウェアを中心に各カテゴリーごとにご紹介させていただきます!
テーブルウェア
温かいものはより温かく、冷たいものはよりひんやりと感じることのできる雄勝石でできた食器たち。
黒の食器ってインパクトが強すぎて使いにくいイメージがあるかもしれませんが、和を意識した食卓にも、モダンなテーブルウェアにもぴったりで光沢のある美しい黒が食べ物本来の美しさを引き立ててくれます。
「角皿」
まるで炭のごとく美しい洗練された黒の角皿。載せるお料理によって違う表情を見せてくれそうです。和の美学を感じます。
※雄勝硯生産販売組合のオンラインストアはこちら
サイズも豊富にあるのでまずは小さなサイズから生活に取り入れてみてもいいですね。
天然石ならではの波模様のような穏やかな波紋がとっても綺麗。
ずっとみていると漆黒の世界に吸い込まれそうになります。
※「こけしのしまぬき」はこけしを中心に東北の工芸品、民芸品の販売を行うお店です。とっても可愛らしい作品がたくさん販売されていますので、ぜひチェックしてみてくださいね!(この後も「こけしのしまぬき」の商品をご紹介いたします!)
端の部分に段差をつけ、模様も異なるよりモダンなデザインの角皿。整ったストライプラインと端の波紋との差がおしゃれです。
雄勝石のプレートに乗せるだけで一気に高級レストランのような風格に。リッチな食事を演出してくれています。
こちらも美しすぎます……!!(フィアットちゃんとのコラボレーションも可愛すぎるので是非ページに飛んでみてください)エディブルフラワーって、可愛いなと思いつつ、なかなか手が出せずにいましたが、素敵なプレートがあれば、思い切って挑戦してみようという気になりますよね!
「丸皿」
お次は丸皿。角皿とはまた違った優美な雰囲気を出しています。シンプルな料理をより美しく魅せてくれています。見た目の美しさを引き出してくれるのはもちろんのこと、より味に集中できるような気がします。
プレートを重ねても面白いですね。風流….!お客様にお出しするときなどに参考にしたいです。ピンクがよく映えますね。
抹茶ケーキ。黒によく映えますね。ちょっとした手作りお菓子も雄勝石のプレートに掛かれば、高級なスイーツになるかもしれませんね(笑)ステキ…….。
「雄勝の濡れ盃」
機械加工が難しいとされる雄勝石の加工を、雄勝町の復興支援を目的とした産官学の連携で開発された精密加工技術により可能にした冷酒用の酒器「雄勝の濡れ盃」。滑らかでマットな質感に、天然石ならではの模様が漆黒の中に伺えます。冷酒を注ぐことで’’濡れた’’姿はさぞ美しいことでしょう…..。
こちらはぐい呑です。竹のようなデザインが素敵です。手に包み込むことで雄勝石の質感を楽しむことができます。
※なんと、こちらの濡れ盃シリーズ、英博物館に収蔵されているそうです!!素晴らしいですね(2019年日本経済新聞より)
「クロテラス(黒照)」
クロテラスは、福島県双葉郡浪江町(級大堀村)で生産されていた「大堀相馬焼」と「雄勝硯」が ’’クロス’’して明日を照らす。そんな思いを込めて生まれた器です。
今から約300年前の元禄年間に、藩士・半谷休閑の下僕の佐馬によって創設され、最盛期の江戸末期には窯元の数も100戸を超えていました。特徴は、七貫青磁のような亀裂が入った「青ひび」と「二重焼き」、狩野流で描いた「走り駒」の絵にあります。
クロテラス HP より
しかし浪江町は、あの東日本大震災で避難地域に指定されてしまいました。
震災前に約25戸あった窯元の中には、廃業を強いられた者もいます。
過酷な現実に向き合いながら、それでも前向きに立ち上がり、新しい土地に窯を築くなどして伝統を守り、それぞれが変わらない想いを抱きつづけているのです。一方、硯の原料として有名な雄勝石の歴史は室町時代までさかのぼり、約600年を越えるといわれています。黒石硬質粘板岩の特性である純黒色で、科学的作用や永い年月にも変質しない性質が。また近代では、東京駅の駅舎の改築にも使われたスレート材としても知られています。震災前には約4,300人が暮らしていた宮城県石巻市雄勝町は東日本大震災の震源に近く、大津波によって町の8割の建物が壊滅的な被害を受けました。現在の雄勝硯を取り巻く環境も、いまだ厳しいものがありますが、多くの人々の協力のもと生産を再開しています。 そんな東北の二つの町の出会いから、みんなの明日を照らす美しい器が生まれました。 はじめまして、「クロテラス」です。
雄勝硯の生産も東日本大震災の影響で一度は生産が中止されてしまったそうです。幸い、雄勝石の採掘場は被害を免れたために現在は復興への道を辿っています。そんな二つの東北の美しい魂が出会って生まれたクロテラス。
現在の美しい黒を出すために何度も試行錯誤を繰り返したそうです。
着地したのは指紋のつかない雄勝石の美しさが最大限に引き出された黒。マッドながら光沢が失われていないモダンでおしゃれ、そして美しい黒ですよね。
見てくださいこのちらし寿司。まるで宝石のように美しいですよね!!魚介の紅を器のの黒が見事に引き立てています。
洋食との相性も抜群。普段の食事がおしゃれなレストランの食事のように華やぎますね。
「クロテラス」では他にも素敵な器を販売されていますので是非チェックしてみてください。(オンラインショップはこちら)
その他
雄勝石を身につけられるなんて、素敵ですよね。シンプルな服装に合わせたいです。
こちらはタイピン。雄勝石の模様が素敵です。さりげないお洒落に。
なんと!三角定規です。かっこよすぎる文房具!!素敵ですね。身の回りのものを一つ一つ素敵なもので埋めていくのってワクワクしますよね。
蒔絵の入ったコースター。宮城県の県花である「萩」の蒔絵がとっても上品。雄勝石の黒によく映えます。
伊達政宗公が隅に入れられたバージョン。武将好きには堪りませんね….!!
こちらは「伝統に新たな息吹を吹き込む」というコンセプトのもと、雄勝石に素敵な模様が施されたコースターです。繊細な線が雄勝石の美しさを引き出してくれています。
苔玉を置くと、とっても風情がありますね。美しい…..。
こちらは先ほどの蒔絵コースターと同じシリーズのマウスパッドです。伊達政宗の兜を飾る弦月モチーフが漆黒の中で美しく輝いています。目を休めるときにマウスパッドを見つめる….というのも素敵ですね。
震災を乗り越え、雄勝石から生まれたガラス
雄勝硯のニーズの減少と震災による人口減少、後継者不足などの問題を受けて、雄勝硯生産販売協同組合は「新たな産業と地域のブランド」を作り出すために、クラウドファンディングを通して「3億年前の地層の石をガラスに!雄勝石で作る幻想的な太古の酒器」を作るために基金を募りました。その結果生まれたのが「雄勝ガラス」です。
雄勝硯のニーズの減少と震災による人口減少、後継者不足などの問題は雄勝町に重くのしかかっています。こうした背景から、雄勝硯生産販売協同組合では早急に「新たな産業と地域のブランド」を作り出さなくてはと考えるようになりました。費用をかけて産業廃棄物として処分している硯を生産する際に残る雄勝石の粉や端材。これも地域の資源として何かに活かすことはできないか?
BLUEFARM より
そんな思いから、サハラ砂漠の砂など世界各地の砂をガラス化して作品作りをしている「海馬ガラス工房」の村山耕二氏に協力を依頼し、約1年間の試行錯誤を重ね完成した商品が雄勝ガラスです。
職人さんの手により一つ一つ手作りで生み出されています。
特徴的な鶯色のガラスは雄勝石からしか生み出すことのできない美しい色。太古の昔に生まれた地層からこんなにも幻想的な緑が現れるなんて….とってもロマンチックですよね。
ぐい呑のサイズとしてちょうど良い大きさ。光の加減によって鶯色はその見え方を自在に変えます。
深みのある鶯色に惚れ惚れします。おつまみをより美味しく見せてくれていますよね!
グラスに現れる陰影や緑の濃淡ががとても美しい。【青森県編その2 】でご紹介した津軽びーどろの砂から作られた「七里長浜」シリーズの緑ともまた違った雰囲気があります。自然が生み出すガラスの色の違い、本当に興味深いですよね。
雄勝石の漆黒が優しい緑を生み出しています。
もちろん雄勝石プレートとの相性も抜群。同じ地層から生まれた美しい器。素敵…….。
終わりに
いかがだったでしょうか?
雄勝石が魅せる美しい漆黒の世界。
空間を引き締めてくれるような鋭さもありながら、有機的な柔らかさも感じる、テーブルウェアであればコーディネート次第、アクセサリーであれば身に着ける人次第でいろいろな表情を見せてくれるそんな魅力と包容力を感じました。
それにしても、思わず見入ってしまうような美しさを放つ黒でしたよね。
いつか実際に手にして実物を眺めてみたいと思います。雄勝にも行ってみたいですね!
他にも雄勝石を使った作品はたくさんありますので皆さんも是非、様々な雄勝石を発見してみてください。
次回【宮城県編その2】もお楽しみに。
それではまた。
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